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逆張りの発想で
病気さえもチャンスに変える。

PROFILE

トランスコスモス株式会社

DEC統括Webインテグレーション2部

Webインテグレーション1課 アシスタントマネージャー

能勢 謙介

取引先の総合電機・素材メーカーに常駐し、製品サイトの運用管理を手がける。一方、17歳で発症した1型糖尿病の患者会運営や実名での情報発信に努めることで、病気を抱えた人のサポートならびに、無理をせずに社会とつながることのできる仕組みづくりに貢献している。

※記事は取材当時の所属役職のものです。

生まれたことだって理不尽。
ならば、すべてを受け止めよう。

能勢氏の日常が一変したのは17歳のときだった。1ヶ月あまりの体調不良ののち、医師から告げられた、1型糖尿病という診断。血管から栄養を取り込むうえで欠かせないインスリンが突然出なくなる自己免疫性の病気であり、放置すれば血管がぼろぼろになり、命を落とす可能性もある。10万人にひとりが発症するといわれているが、インスリンを注射で打つという対症療法以外に、抜本的な治療法が見つかっていない。それどころか、医療の現場では不適切な治療が行われているケースも少なくないという。

「宣告を受けたとき、ショックを受けたのは私よりもむしろ両親の方でした。そのせいか、自分はどこか冷静になれたように思います。いま思えばそうやって自分を一歩離れたところから見ることができていたというのはとてもラッキーなことで、この病気を抱えている人やその家族はメンタルに負担がかかる傾向があるんです。『どうして自分がこんな目に遭うんだろう。理不尽だ』と、いくら考えても結論が出ない意識に囚われてしまう。でも私の場合は感情的に反応しなかったことで、こんな風に発想を転換できました。『理不尽とは道理に合わないことを指すけれど、それは実は良い出来事にも言えること。与(あず)かりしれないことに翻弄されるという意味では、この世に生を受けたことだって、とらえようによっては理不尽。ついつい悪いことにばかり意識が向きがちだけれど、良い理不尽だっていっぱいあるのだから、良いことも、悪いことも、すべて受け入れよう』って」

病気を抱えた人が
無理せず生きられる世の中を創る

病気を抱えながらも企業に務める能勢氏は、クライアント先に常駐し、製品サイトの運用管理の現場責任者の職務を担っているという。8年の歳月を重ねた現在は先方の社員よりも豊富な知識を誇り、ひとり事業所とも言えるほどの厚い信頼を寄せられている。

一方で、能勢氏にはもうひとつ注力していることがある。仕事を離れた活動だ。

「HPの黎明期から、1型糖尿病に関する情報をネット上で実名で発信する活動を続けてきました。この病気に対する理解を促したい。そして自分がハブとなることで同じ状況の人たちをつなぎ、治療法や日常生活におけるノウハウのシェアや集積ができたらという思いからです」



そこから発展し、患者会の運営サイドにも起用され、年に何回かは依頼を受けての講演も行っている。この病気と対峙している人の間ではかなり名の知れた存在であり、気づけばFacebookの友人は700人を、フォロワーは300人に、運営するグループの参加者は400人を超え、自分が発した言葉が面識のない人にも拡散され、一人歩きしているという。こうした状況から、こちらの活動に専念することも考えた。収益化は充分に見込める。企業勤めは身体的な負担も大きいうえに、日中の拘束は否めない。それだけ人前で、治療に伴う低血糖発作を起こすリスクが増えるのだから、会社を辞めたほうが安心して過ごせるはず。しかし、その道は選ばなかった。

「ほかの方と同じ状況に身を置きたい。会社員として働き続けられることを証明するのも自分の役目だと思うので。私の姿に励まされる方もいるでしょうし、普段の生活の中で手にしたノウハウをシェアすることだってできる。そこにトライしつづけながら、いずれは病気を抱えた方が、無理せず生きられる働き方を模索していきたいと思うんです」

逆張りの発想で可能性を最大化させる

誰もがこちらの道を選ぶだろうというところで、逆に進む。病気とつきあうようになってから、なにごとにおいても逆張りの選択をするようになったという能勢氏。1型糖尿病という特殊な状況を基点に生きてきたことが、人と違う考え方や行動を意識的にとりいれる習慣につながったのだ。

「この病気を抱えている人の多くは、疲労や激しい運動を避け、できる限り血糖値を安定させようとします。バランスが崩れた状態が長く続くと腎症や網膜症を引き起こしかねませんから。でも、ここでも私は逆張りです。通勤に電車を利用せず、自転車を使う時期があったことから、さらに味をしめ、ロードバイクで鈴鹿サーキットの耐久レースにも参加。初レースながら上位3分の1に入りました。さらに水泳はどうだろうと泳ぎはじめたら、これもなかなかの手応えを得たので、スプリントのトライアスロンに取り組むようになりました。いずれ近いうちにアイアンマンにも挑んでみたいと思っているんです」

驚きを隠せないでいる我々に対し、能勢氏はいたずらっぽい笑みを浮かべながら続けた。「不思議なものですね。1型糖尿病を発症していなければトライアスロンをやろうなんて絶対に考えなかった。小さい頃から運動が苦手で、いまでも運動のセンスはないと思っていますから」

まさに逆張り。多くの制約を与えた病気に屈するのではなく、むしろ世界を広げ、自らのポテンシャルを最大化しているのだ。そんな彼の生きざまは、逆境に直面している人の希望となるに違いない。困難に打ち克つ能勢氏の強さを、彼の後につづく人々の勇気を、心から讃えたい。