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真実が、何か。
本当のことは、どこにあるのか。
数字と感覚で突き詰める。

PROFILE

株式会社ブリヂストン

技術戦略本部 技術戦略部

技術戦略第2ユニットリーダー

川上 伸一郎

2002年 九州工業大学大学院 工学研究科 修士課程修了

入社後はPSタイヤ開発部に所属し、様々なメーカーの乗用車用タイヤ開発に携わる。2004年には、独自動車メーカーの担当部署に異動、パンクしても所定のスピードで一定距離を走行できるランフラットテクノロジー採用タイヤの適用拡大に尽力。2013年より、開発企画管理部にて技術戦略・部門運営に関わり、2015年よりPSタイヤ開発部に復帰。北米ビッグ3の自動車メーカーのアジア市場向けタイヤ開発に従事。2016年より現在は技術部門の人材育成、組織改革を担う立場にある。

※記事は取材当時の所属役職のものです。

数字だけではわからない
真実をとらえる。

川上氏が開発していたのは乗用車向け新車装着用タイヤ。いかに安全性が高く、乗り心地の良いタイヤをつくるか。名だたるブランドカーメーカーと協同し、一つひとつの車に合わせた最適で高性能なタイヤ開発に取り組んでいる。そんな川上氏に、タイヤを開発するうえで、大切にしていることを聞いてみた。

「わたしはいつも、研究所にこもって考えるのではなく、必ず試験場の現場に足を運ぶようにしています。実験データを検証しながら、このように変えれば理論上もっと性能が良くなる、と考えるのはもちろん大事です。でも、数値上での理論が実際にどのように動いているのか、五感で感じて確かめないと気が済まないんですよ。ブリヂストンの品質として、数字は間違いなく大事ですが、物事の真実を突き詰めていくためには、人間の感覚も大事だと考えていますね」

タイヤの開発というと、数字から得た客観的なデータを分析して、改善していくというイメージだ。しかし、数字だけでは真実にたどり着けない。川上氏はいつもテストコースまで駆けつけるという。

タイヤの評価をプロ目線で
感じるために、今日も現場へ。

開発したタイヤの評価は、試験場でプロのテストドライバーが行う。タイヤの固さ(ばね)や上下の振動など、数字だけでは感じ取れない微妙な感覚を、川上氏は実際に車内で一緒に体感するのだという。

「例えば、ドライバーから『固すぎる』というフィードバックがあった時に、どんな『固さ』なのかを自分で体感して理解したい性格なのです。先ずプロが感じたことを自分の体感で捉えることから、議論を始めます。ドライバーさんが言っていることはこういうことでしょうか?じゃあ、こうしたらどうですか?と。わたしがテストコースに行くと、嫌がる人も多いですね。本当なら5つのテストで終わるものを、空気圧の上げ下げやタイヤの組み合わせを変えながらその場で何度も確認するので、なかなか帰れないと(笑)。もちろん、数字を見ながらメカニズムを追うことは当然大事なのですが、数字だけを見ているとそれがすべてだと思い込んで、見失ってしまうものがきっとある。技術がどうあるべきか、本質を語るにはまだまだ私には足りないけれど、安心や安全を支えるメーカーの人間である以上、目の前に起きている現象の真実が何なのか、どこにあるのかを突き詰めるために、現場に出向くエンジニアでありたいと思っています」

車の乗り心地や操縦性という指標は、プロとはいえ個人の感覚に委ねられてしまう部分もまだまだある。数字だけで判断せず、そこに人間の感覚という温度を通わせることで、開発者として自信を持った製品を世の中に送り出す。川上氏は、今日も真実を求めて現場に向かう。

数字と感覚のバランスで、
最高品質を作り出す。

川上氏に、今後のキャリアの展望について聞いてみた。

「以前は感覚の部分をより大事にしながら、ものづくりをしてきました。でも、真実を追求するためには数字での理解も当然必要です。数字の面から品質を高めた上で、さらに良いものに仕上げていくために、自分の得意とする感覚を活かしていきたいと思っています。『最高の品質で社会に貢献する』というブリヂストンの企業理念にもある通り、社会に貢献していくために数字と感覚の両面を磨き、バランスを取りながら最高の品質を目指していきます。今後は、ブリヂストン技術部門の人材育成や組織改革を先導し、ブリヂストングループ全体の技術発展に、あらゆる形で貢献していきたいですね」

開発という分野において感覚を大事にしている川上氏の考え方は、きっと日本のものづくりを追求する上で欠かすことはできないだろう。川上氏が生み出す商品や、今後の人材育成・組織改革分野での活躍に期待したい。