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大切なのは縁と運と恩。
心を裸にして
コミュニケーションをはかる。

PROFILE

ユニバーサル ミュージック合同会社

UNIVERSAL MUSIC & BRANDS

チーフ・プロデューサー

石井 浩之

2004年に入社。理工学部出身だが、大手レコード会社のユニバーサル ミュージックに入社。洋楽の宣伝部からキャリアをスタートし、複数の事業部を渡り歩いた。そこで培った組織横断の知見をベースに、2010年、同社のアセットを組み合わせクライアントへサービスを提供する新規事業に異動。音楽作品を様々な形で届けるための新たな挑戦を形にしている。好きな音楽はアルノルト・シェーンベルクとザ・ビートルズの中期。

※記事は取材当時の所属役職のものです。

成功とも失敗とも呼べない
体験を重ねた先で

洋楽の宣伝部からキャリアをスタートした石井氏。異動の少ない組織にも関わらず複数の事業部を経験したというが、その理由として、周囲を納得させる成果が残せなかったからだと厳しい自己評価をくだす。

「音楽業界の中で、素晴らしい実績をお持ちの方はたくさんいるんです。その方たちと比較対象にもなりませんし、ヒットを飛ばす新人を育成したわけでも、営業成績がずば抜けてよかったわけでもありません。成功とも失敗とも呼べない体験を重ねていましたね」

そんな状況が一転したのは、7年前の組織改編がきっかけだった。石井氏のキャリアが活きる、もっといえば石井氏だからできる、そんな機会だった。

「既存の事業以外にも成長の機会が必要と判断した当時の経営陣が、クライアント企業のニーズに対し、自社の資産を活用する新規組織を立ち上げたんです。企業とアーティストの楽曲タイアップとは異なるアプローチで、クライアントの課題にあわせてマーケティングやブランディングのサポートを行う部門です。既存の曲を売り込んだり、アーティストと一緒に新しい楽曲をつくって提供したり、アーティストの発掘から手がけたり。弊社の作品やアーティストを軸に、楽曲や映像の制作から、イベント運営、ノベルティ制作、メディアに取り上げられる施策の考案など、ワンストップで請け負う事業です」

クライアントのニーズと、アーティストのこだわりを、どう繋ぐかが肝だという。著作権をはじめ、アーティストや作品を守るためのルールから外れてはならない。そこに複数の事業部を渡り歩いた石井氏の経験が活きる。いくつもの点と点を結び、最終的にハードルを上手にこえながらクライアントとアーティストの意向をふまえた接続を実現するのだ。打ち合わせではその発想に驚く人も多いというが、石井氏に言わせれば突飛さよりも、目に見えない関係性をさぐり、いかにユニークなシナリオを描くかがポイントだと言う。

生徒に教えるのは、
先生とは真逆のこと

新規事業の価値を提供する対象は、企業だけではない。ユニークなところでは、Dance Education Project(DEP)とダンスアドベンチャーの事例が挙げられる。DEPは、学校授業でダンスが必修となったのを背景に、ダンスインストラクターを学校に派遣する企業協賛型の出張授業運営サービスだ。インストラクターの派遣に加えて、ユニバーサル ミュージックの楽曲を授業に提供している。さらに現在は、発展型のキャリア教育「ダンス アドベンチャー」を並行して実施しており、パートナーとともに経済産業省の第6回「キャリア教育アワード」を受賞している。

「キャリア教育とは、端的にいえば『「生きる力」を身につけるプログラム』です。ダンスアドベンチャーは一言でいうと「校歌でダンス」です。学校には必ず校歌がありますが、これを体育の必須科目であるリズムダンスに編集しなおし、歌詞の意味を読み解いたり、バックグラウンドにある地元について知ったり、生徒が校歌を自分なりに解釈して身体を使って表現したり、いろいろな学びを加えていくんです。」

そのユニークさを次のように語る。

「目をつぶって校歌にあわせて手拍子してもらうと、最初はバラバラだったものが、だんだんその場にいるみんなの手拍子があってくるんです。そこで一言『同調は求めていません。生きる力って、そうじゃないですよね』と説くと、みんなハッとしますね。自分らしさを求めながらも、無意識に同調している自分に気づくんです。そこでさらに音楽というのは音を学ぶのではなく、音を楽しむことだと伝えます。楽しみ方は人それぞれだということを話すと、みんな納得してくれます。少しずつ自分らしさを解放していくような感覚で、プログラムの中では意見が衝突した生徒たちが本気で喧嘩になることもあります。僕らもそれを止めません。先生がたの指導とは真逆のことを話しながら、正解が一つでない事もあると伝えていくんです」

心を裸にする感覚

石井氏が大切にしているのは、縁と運と恩。この3つが仕事を生み出しているという。

「縁はこれまで作り上げてきたもの。運は、きっかけとか、ドライブがかかる要素ですね。それが持続することで恩になり、さらにその先で再び縁になる。このサイクルが仕事を呼ぶと思っています。ようするに、ひとつの出会いが長く続くかどうかが重要ということですね。」

実際、石井氏には長年にわたって定期的にお酒を飲む関係の人が何人かいるという。「いつか一緒に仕事ができればいいね」と関係を温めてきたところ、このほど実現の運びとなった人も。まさに縁であり、運である。しかし、ここで結果を出せなければ恩にはならないのだ。

石井氏は、そういったコミュニケーションを大切にするタイプだという。そして面白いのが、駆け引きが苦手なタイプだということ。

「ビジネスシーンだと、腹の探りあいが必要な時もあります。宴席でもそう。しかし、私がそれをやると、顔が引きつっちゃうらしいんです。だから逆手をとって、自分からどんどん相手に心を開いていく。そのうえで腹を割ったコミュニケーションをはかるんです」

それを聞いて、なるほどと感じた。腹を割らない人との間に縁が結ばれるわけがない。自分をさらけだす勇気がある石井氏だからこそ、仕事に発展する良縁を手にできるのだろう。では逆に、相手を開示する方法、相手の心に触れるアプローチの方法はあるのだろうか。これまた、駆け引きができない石井氏らしい答えが返ってきた。好きな音楽を聞くことが多いというのだ。

「仕事柄いろんな音楽を聴く中で、それぞれの音楽にそれぞれの良さがある。そのどこがその人のつぼなのか。人柄が見えてきてとてもワクワクするのです」

恥をかくことをいとわず、裸になれる人にかなうわけがない。そうして手にした縁を大きなビジネスチャンスに変えていくのだろう。石井氏が手にした縁を、どうつないでいくのか、どんなビジネスに昇華するかが楽しみである。