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普通の人の感覚こそが
世の中に散らばる
革新のタネを見つけ出す。

PROFILE

江崎グリコ株式会社

営業本部 営業推進室
ショッパーマーケティンググループ
広域チーム

チーフ

渡辺 太一郎

1999年、グリコ乳業に入社。関西の営業を6年、営業本部のスタッフを3年経験したのち、2008年、自ら志願して親会社である江崎グリコに出向。前例のないことで、ここから始まる人材交流により、2015年の江崎グリコとグリコ乳業の合併に向けた流れの一端をつくり上げていった。現在は、2017年に設立されたショッパーマーケティンググループで、店頭プロモーションを科学するミッションを担っている。

※記事は取材当時の所属役職のものです。

親会社は未知の世界

2000年代中頃、世の中には合併の嵐が吹き荒れていた。外国企業による買収や、グループ内での合併、ホールディングス制の導入など、周囲の企業が刻々と変化していくなかで、渡辺氏は江崎グリコグループもこのままではいけないという危機感を持っていた。当時の渡辺氏の所属は、《プッチンプリン》や《カフェオーレ》といったチルド商品が主力のグリコ乳業。同じグループでありながら、ポッキーなどの菓子領域についてまったく語れない状況をもどかしく思っていたという。

「当時は、お客様から見たら同じglicoなのに人事も広報も営業本部も各社に別々にあってバラバラに動いていました。グローバル化が進む世の中を見据えたときに、グループ内のシナジーを活かしていかないと勝ち残れないと思ったんです。」。

そして渡辺氏は、その想いを行動に移す。グリコ乳業の営業本部にいた2006年、対外的防衛策の観点、シナジー発揮の観点から、グループ内の人材交流を進めるべきだという社内提言を行い、2008年に自らが江崎グリコに出向するという形で、前例のないグループ内人材交流を実現させたのだ。

「出向してみたら、グリコ乳業から見て江崎グリコが未知の世界だったのと同じように、江崎グリコから見たグリコ乳業も謎に包まれていたことを痛感しました。同じシステムを使っているのはメールくらいで、イントラネットで見られる乳業の情報は皆無でした。分かり合えるわけがないと思いましたね。一つひとつのシステムの開通や、それを実現させるルールづくりが、シナジーを生む基盤をつくるための最初の仕事でした」。

合併の最大のシナジーは
人と人とのつながり

渡辺氏はもちろん、将来的なシナジーのための活動だけでなく、眼前にある実務で結果を出すことも怠らなかった。

「同じグループなのに、本当に扱っている商品すら知らなくて。でも、乳業から来たヤツは使えないと思われるのだけは嫌でした。必死で商品を覚え、得意先を覚え、他部署も含めた同僚の顔と名前を覚えるよう努力しました。そうしたら、1年ぐらいで結構顔が広い人になっていたんです。乳業から来た稀な奴というのもありましたが、周りの人に支えられたこともあって、社内の誰に何を聞けばいいかがおおよそわかったのはもちろん、乳業について知ってもらうきっかけにもなりました」。

当時は、グループ間の連携が乏しく、お互いに聞きたいことがあっても、誰に聞けばいいのか分からない状態。自然、「乳業については渡辺に聞け」という共通認識が生まれた。ときには経営陣に呼び出されて、乳業の実態について聞かれたこともあったという。

「合併のシナジーって、教科書的にはバリューチェーンだ、コスト構造だとかいうのがあるんでしょうけど、現場としては人と人のつながりが最大の産物だと思うんです。それまでなかったつながりを持ち、情報交換することが、新しいアイデアを生み出すきっかけになるんだと思います」。

実際、渡辺氏は、様々な人と接するなかで、菓子部門が持つ多彩なプロモーションノウハウに驚かされたという。

「どこでも売れる常温品の菓子に対し、チルド品の売場は冷蔵コーナーに限定されるじゃないですか。それだけ視野が狭くなっていたんですね。『乳業に戻って、これを試してみたい』と、大きな刺激を受けました」。

チルド領域に戻った渡辺氏が取り組んだカフェオーレのプロモーションも、人とのつながりから生まれている。個別に活躍するアーティスト3人で特別ユニットをつくり、音を使った店頭プロモーションを成功させた例だが、このときコラボしたユニバーサルミュージックの石井氏と出会えたのは、江崎グリコへの出向と、そこでの人のつながりがあってこそだという。

革新のタネは身近にある

こうして、組織にも、仕事にも革新を起こしてきた渡辺氏は、「組織の革新」と「仕事の革新」の共通項について独自の見解を語ってくれた。

「間違いなく言えるのは、組織を革新するにしろ、仕事を革新するにしろ、世の中にそのためのタネがあるということですね。ある組織で当たり前になっていることを、別の組織に持ってきてカスタマイズしたら、まったく新しい価値を生み出したり。A というタネとBというタネを組み合わせたらすごく斬新なものに見えたり。江崎グリコとグリコ乳業の合体に向けた人材交流も、『銀行をはじめ他社がガンガン合併している』というタネから、グリコが一つになってもおかしくない、きっと面白いことになると考えた例。新しいプロモーションを考えるときには、店頭やお客様はもちろん、一消費者である自分の中にタネがあるかもしれないと常に考えて革新のタネを探しています。タネを見つけたらいち早く導入して小さな成果から大きく広げていくこと。最初から100を目指そうとしないことが大事かなと思っています」。

世の中に散在する革新のタネを見つけられるのは、『社内の普通』にとらわれず、世の中一般の普通の感覚を持ち続けられる凡人だからだと、渡辺氏はいう。

あと5年で江崎グリコは100周年を迎える。次の100年につながる新しいプロモーションを生み出したいと語る渡辺氏が、どんなタネを見つけ、どんな花を咲かせるのか、今から楽しみだ。