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イントレプレナーが不可欠。
そんな時代がきている。

PROFILE

三井不動産株式会社

ベンチャー共創事業部 事業グループ

統括

光村 圭一郎

2007年、5年間勤めた講談社から三井不動産へ転職。オフィスビル事業部門で開発・運営管理に従事した後、2012年から新規事業領域を担当。2014年に「Clipニホンバシ」を立ち上げ、自ら企画したビジネス創造拠点「BASE Q」も2018年にオープンさせた。メディアへの出演歴多数。

※記事は取材当時の所属役職のものです。

デザインすべきは、
建築物ではない。
人、モノ、情報の
コミュニケーションです。

2018年5月、日比谷の新たな情報発信地『東京ミッドタウン日比谷』にビジネス創造拠点「BASE Q」がオープンした。大手企業の新規事業開発者、NPOやベンチャー企業、クリエーター等が集い、新たな価値の創出や社会課題の解決を目指す。注目したいのが、「場」そのものの提供だけでなく、大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムも展開している点だ。出会いの創出だけにとどまらず、オープンイノベーションから事業が生まれる仕組みを積極的に仕掛けている。リリースして間もないが、その反響は大きいという。「BASE Q」自体も、三井不動産としての新規事業であり、チャレンジである。この事業の生みの親、光村圭一郎氏に話を伺った。

光村氏が三井不動産へ入社したのは2007年のことである。5年間勤めた大手出版社からの転職だった。

「最初は、街づくりって楽しそうだな、くらいの気持ちで入社しました。ただ2010年に子会社である三井不動産ビルマネジメントへ異動になり、いわゆるオフィスビルの管理を担当することになって。40年前にできた超高層ビルを担当していたのですが、そこで気づいてしまった。ビルの設計思想は40年たった今でも大きな変化がないということに。もちろんディテールの進化や意匠のトレンドはありますが、根っこの部分は変わっていない。結局ビルは、どう作るかよりどう使うかが大切なんだと思ったんです。そうでなければ、古いビルを壊しては新しいビルを作る、の繰り返し。それは、経済的にも社会的にも環境的にもいいことじゃない。だから光を当てるべきは、その中身なんだろうと。」

入社後数年で見えてきたデベロッパーとしての仕事の核、つまり「街づくりとはビルを作ることでなく、そこで生まれるソフトやコミュニケーションをデザインすること」という考えは、その後、ゼロイチを生み出す仕事へとつながっていく。

日本の大企業に
オープンイノベーションを。

2011年、東日本大震災によって不動産業界も大きな打撃を受けた。

「空室が目立つ中、家賃を下げてスタートアップ企業を支援してはどうかという話が社内で持ち上がり、私が担当することになりました。しかしリアルなヒアリングを進めたところ、家賃を下げることは、スタートアップ企業にとって短期的な資金の節約以上のメリットはない。彼らが新しい価値をもっと世に輩出するためには、例えばプロダクトの実証実験や販売戦略のフォローなど、もっと積極的かつ具体的な協力や支援を必要としているということが分かったんです。」

このときの経験が、起業家支援をコンセプトに含むコワーキングスペース「Clipニホンバシ」や前述の「BASE Q」の設立へとつながった。

一方で、日本の大手企業というのは、彼らなりの病理を抱えていると光村氏は語る。日本は文化的にも社会制度的にも雇用の流動性が低く、新しい考え方が入らないためにイノベーションが起こりにくい。だからこそいま大手企業に求められているのは、イントレプレナー(社内起業家)の存在なのだという。

「みんながみんなスティーブ・ジョブズ(Apple創設者)やマーク・ザッカーバーグ(Facebook創設者)になれるわけではない。逆にそういう人が日本の大手企業の中で何か起こそうと思っても、それはそれでうまくいきません。アイデアさえ優れていれば新規事業はうまくいく、というほど大企業はシンプルじゃない。イントレプレナーは、会社の外で生まれる小さくて新しいビジネスの種(スタートアップ企業のアイデア)と、会社の中にある古くて大きいもの(大手企業のリソース)をどうかけ合わせていくかを考えられる人だと思います。しかもそれを極めて早い段階で感じ取れる人たち。大手企業がオープンイノベーションを起こしていくには、社内にそういう人材が少なくとも5~10人くらいは必要なんじゃないかと思っています。」

基本的に仕事が嫌い。
面白くないと、動けないんです。笑

ここまで彼を突き動かしているものは、なんなのだろうか。

「すべての行動の源泉は好奇心だと思っています。もっというと、僕は基本的に仕事が嫌いなんです。だから、面白くなければ仕事に力を注ぐことができない。そして僕の場合、決まった答えにたどり着くための仕事より、答えがないものを作り上げていく方が好奇心が刺激されます。答えが見えた段階で飽きが出てしまうんですね。これを進めていくとどうなるんだろうと、ずっとナゾナゾをやっている時が面白いし、そうやってプロセスを一緒に楽しめる人と一緒に仕事をしたいなと思っています。」

イントレプレナーとしての自らをそう分析する光村氏。取材中、今後の日本の大企業におけるイントレプレナーの必要性についても熱く語ってくれた。

「私はあくまで日本企業のサラリーマン。総合職なので、いろんな部署へ移る可能性もあるわけですが、イントレプレナーというものがひとつの職能として認められたらいいなと思いますね。長い目線でイノベーションに取り組もうとすると、3~4 年で異動することが常のサラリーマン的な働き方がフィットしないと感じることが多くある。そのためにはルールや制度面も見直していくべきだと感じています。」

最後に、光村氏の思い描く今後の展望を聞いてみた。

「今は都市としての東京の負の側面をいかに減らし、イノベーションを生む機能を強めるかに興味があります。東京圏には3500万人もの人が住んでいて、現在も増え続けている。満員電車、環境や治安の悪化などを解決できていない一方で、イノベーションが生まれるための人や価値観、アイデアの交流はまだ非効率なまま。20世紀型のハコモノ重視の都市の形から、21世紀の生活様態に合う形に理デザインしていくという大事業が今後の仕事だと思っています。東京を都市としてもっと魅力的にしていきたいですね。」