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組織を生まれ変わらせるのは、
一人ひとりの強い意志だ。

PROFILE

雪印メグミルク株式会社

経営企画室

室長

森 隆志 博士(医学)

1988年雪印乳業に入社。2003年雪印乳業の市乳事業部門と農協系乳業メーカーである全国農協直販、ジャパンミルクネットの3社を経営統合し日本ミルクコミュニティが創業。経営企画部 課長代理。2009年日本ミルクコミュニティと雪印乳業が経営統合し共同持株会社雪印メグミルク設立。2011年雪印メグミルクが雪印乳業と日本ミルクコミュニティを吸収合併。新生雪印メグミルク事業開発部 課長。2012年に派遣研究員として弘前大学大学院に2年間所属し、新規事業の開発に携わる。マネタイズするまでには至らなかったが、役割やチームの大切さを知る。人に出会い、刺激を受け、発想するというスタイルで、現在は同社の総合企画室長を務めている。
※記事は取材当時の所属役職のものです

食中毒事件の
真っただ中で痛感した、
危機を乗り越えた組織の強さ。

2000年に起きた雪印乳業食中毒事件。大阪で食中毒患者の届け出があり、その原因が雪印乳業の製品だと判明する。全社を挙げて対応に力を注ぐものの、結果的に計り知れないほど大きなダメージを受ける事件となった。森氏はその渦中で、組織と人の動きをリアルに感じ取っていた。

「当時はすでに東京に異動していたのですが、半年前まで在籍していた大阪支店に急行し、お客様対応に奔走していました。あまりにも非常事態だったので、通常の指揮系統がまったくと言っていいほど機能しない。しかしそうやって組織がバラバラになりそうな時には、自然発生的にリーダーが生まれてくるんです。次にやることや役割分担などをそれぞれが見つけ、取り組んでいく。会社の指示は絶対ではなく、自ら咀嚼し、理解し、納得して動くことが重要なんだと痛感しました。当時の危機の中で身につけた仕事の仕方が、今の自分のスタンスにつながっているかもしれません。誰かのせいにしたり、慌てふためいたりしても物事は好転しない。常に冷静に対処することが大切ですね」

さまざまなリーダーが次々と生まれ、チームを率いていく姿を目の当たりにしたという。さらに一段上から全体を俯瞰的に捉え、「このチームとこのチームは統合した方が効率的じゃないか」と提言する人も現れ始めた。食中毒は、もちろんあってはならないことだ。だが、大きな危機を乗り越えたからこそ組織がより強く生まれ変わったことも事実。組織の試行錯誤と規律化していくさまを目の当たりにした経験だった。

「外でも通用するが、この仕事をしたいからこの会社にいる」という意識を持ちたい。

その後森氏は、事業再編や経営統合を繰り返しながら再生を目指すグループの中で、新たな組織やブランドを構築する最前線で手腕を発揮することになる。食中毒事件を受けてのブランド再生検討、日本ミルクコミュニティ設立プロジェクト、「MEGMILK」ブランドの立ち上げと立て続けに担当した後、雪印メグミルク・雪印乳業・日本ミルクコミュニティの3社統合プロジェクトに参画。組織にとっての軸となる、企業理念やコーポレートメッセージの制定も担当した。

「自分たちで新たな歴史を紡いでいくのだという決意を込めて『未来は、ミルクの中にある』というメッセージを策定。現在は、長期ビジョン達成に向け大切にしたい価値観を「主体性」「チャレンジ」「チームワーク」という言葉にした「雪印メグミルクバリュー」の浸透に携わっている。

どれも平易な言葉ですが、その捉え方や言葉に対する想いは一人ひとり違います。互いの理解や価値観の共有化に向けて『あなたにとっての主体性とは』といった議論を継続的に実施するようにもしています。そうしたプロセスを経ることで、全員が主体性を持って様々なことにチャレンジするチームを構築することができる。3つとも、進化し続ける組織であるために欠かせないキーワードです」

個の成長と組織の強化は密接にリンクしている。非常時のチームの在り方を体感した森氏だからこそ、サラリーマンのあるべき姿を語る声にも熱がこもる。

「会社員という立場は、勤め先に従属して会社から仕事を与えられるのではなく、どこへ行っても通用する人材に成長した上で、自分がやりたい仕事、すべき仕事があるからこの会社にいるんだという意識を持つことが大切だと考えています。その自覚を持って初めて、自らの使命に全力で打ち込むことができますから」

ビジネスの本質は社会課題の解決。
その本質を見据えた上で、ビジネスモデルをデザインする。

組織の再生・強化に邁進してきた森氏だが、もちろん個人としてのチャレンジにも意欲的に取り組んでいる。2年間弘前大学大学院の派遣研究員となり、健康に関する新規事業を模索した経験もその一つだ。

「お恥ずかしい話ですが、2年の間に事業をマネタイズするところまでは実現できませんでした。現代において食の安心・安全が当たり前のものであるように、健康に対して直接的にお金を支払うという習慣がないんだと気づくまでに時間がかかってしまった。たとえば高齢者を集めて健康のための運動教室を開催したことがあるのですが、現場では非常に好評なんです。皆さん口々に『これは面白い』『家でもやります』と言うんですが、帰ったら絶対にやらない(笑)。日常とは違う空間で、周りの人や先生と話すという楽しみがあるからやるのであって、ただ健康のために家で筋トレをする5分間は、忙しくて時間がとれないと言うんです」

健康だけを目的としたビジネスはなかなか難しい。楽しいから、美味しいからといった別の目的を設定した上で、付加価値として健康を提供するビジネスモデルを考える必要がある。まさに、雪印メグミルクの本業である乳製品の『美味しくて、体に優しい』という価値そのものだ。組織づくり、そして事業づくり。遠回りしたようでありながら、こうした経験を数多く積み重ねてきた森氏だからこそ、ビジネスの本質にも気づくことができた。

「ビジネスマンとして最終的に大切なのは、社会課題の解決を目指すことだと思っています。ただ単にお金を儲けるなら、資金を使って投資して回せばいい。そうでなく新規事業を作っていこうというのなら、社会が抱える課題に全力で向き合っていく必要があります。我々が目指すのは、誰もが健康に生きられる社会です。社会課題を見据えた上で、しっかりと利益を出せるだけのビジネスモデルを構築する。この両輪が無ければ、組織を永続させることはできません」

大きな危機や高い壁に真正面から立ち向かってきた森氏が見つけた“真実”が、次代の雪印メグミルクを形づくっていく。